Japones

第１２章　生産物市場と不完全情報



本章の要約１　不完全情報　　経済の基本的な競争モデルでは市場の参加者は売買されている財とその価格に関して完全な情報を持っていると仮定されている。しかし、これは現実的な想定ではない。経済主体がこれらについて完全な情報を持っているとき、完全情報であるという。これに対して、完全情報ではないとき、すなわち、市場の参加者が売買されている財とその価格に関して完全な情報を持っていないとき、不完全情報であるという。経済モデルに不完全情報を導入することにより、基本的な経済モデルでは説明できない多くの現象を経済学的に説明することが可能となった。
２　情報の市場　　情報の価値は内容を知らなければ判断できないが、内容を知ってしまえばもはや情報を買う必要はない。また、提示されている情報が信頼できるものであるかどうかについて判断することが難しいという問題点もある。このような理由やその他の理由により、情報を取引する市場は非常に不完全なものになっている。３　レモン市場と逆選択　　逆選択の問題は、市場の買い手と売り手が同一の情報を持っていない非対称情報のときに発生する。買い手は生産物の真の品質を判断できないが、売り手はその品質を知っているとき、財の価格が下落するのにともない、市場で売りに出される財の品質の構成が悪化し、より低い価格で需要される量はより高い価格での需要量よりもかえって少なくなる可能性がある。このようなときには、市場において比較的少数の売り手と買い手しか存在しなくなる。こうした比較的少数の売り手と買い手しか存在しないとき市場が薄いという。さらに、市場があまりにも薄く、ほとんど存在しないに等しいとき市場が非完備であるという。
４　シグナル　　非対称情報下においては、自分がどのようなタイプであるか、あるいは自分が販売している財の品質がどのようなものであるかを、何らかの行動により相手に伝えることがある。これを、シグナリングあるいはシグナルを送るという。ある行動がシグナルとして機能するためには、品質が良い財を売っている人のほうがその行動をとるコストが低くなければならない。例えば、高品質の製品の生産者は、より良い保証を付けることによって、その製品が競争相手のものより良いというシグナルを送ろうとすることがある。
５　価格による品質の判定　　非対称情報下においては、販売されている財の品質が価格により判断されることがある。消費者が財の品質を価格で判断するとき、最も高い価値を提供する価格が存在する。たとえその価格において供給したいと思う量が需要量を上回っていても、企業は価格をこの「最高価値」価格以下に引き下げるインセンティブを持たない。結果として、市場均衡で財の超過供給が存在するということになる。６　インセンティブ問題　　完全情報が存在するときには、私的所有制と価格メカニズムがすべての市場の参加者に正しいインセンティブを与えることができる。情報が不完全なときに、正しいインセンティブを与えるのに役に立つ二つの方法は、契約と名声（あるいは評判）である。７　契約　　契約には通常、もしストライキがあれば、天候が悪ければ……等の場合には引渡しを延期することができるというような「免責」条項が存在する。このような条件付き条項によって、さまざまな状況下において契約の各当事者がなすべきことを特定化することができる。条件付き条項の存在は、契約の当事者にインセンティブを与え、当事者間でリスクを分担させる働きを持つ一方で、契約を複雑にする。すべての状況を網羅した完全な契約を作ることは不可能であり、またその執行にもコストがかかるので、契約はインセンティブの解決方法としては不完全なものである。８　名声　　品質の高い財・サービスを繰り返し供給することにより企業は名声を確立する。確立された名声は、企業に、より高い利潤をもたらす。これは企業が良い評判を得ていることに対する収益であり、名声のレントと呼ばれる。名声を得ている企業は、品質の悪い財・サービスを供給すると名声を傷つけ、名声のレントを失ってしまう。このように名声は、企業に品質の高い財・サービスを提供しつづけようというインセンティブを与えるものである。...